カウンターが果たす飲食店での役割

レストラン、居酒屋、ラーメン屋やおしゃれなイタリアン。同じ行動の繰り返しになりがちな日常の中で得られるささやかな非日常として、外食はとても楽しいものですよね。あらかじめ予約をして飲食店を訪れる際は、テーブルや座敷に通されることが多いですが、遊びに出かけているときや仕事中の昼休みなどに見かけた店にふらっと入ると、カウンター席に通される機会も少なくありません。

カウンター席はテーブル席などの他の席に比べ、店のこだわりや個性、雰囲気の差異を感じやすい場所です。手狭で嫌という方もいらっしゃるかもしれませんが、他店との違いに注視してみるのも楽しいものです。このコラムをご覧になられているみなさまは、そんなカウンター席の役割について考えたことはございますでしょうか?ここではカウンター席の意義について、お店を経営する側の視点から考えていきたいと思います。

1.カウンター席の役割

まず、カウンター席の役割を一言で言い表すと「店の顔」です。カウンター席は厨房に面した位置に設けられていることが多く、来店したお客様の多くが必ず一度は目を向ける場所になります。自分の頼んだ料理が作られている場所なので、厨房を気にしない人はあまりいません。仮にここが散らかっていれば、いくら他の場所を綺麗に整えていたとしても、店そのものの印象が雑然とした様子に塗り替えられてしまいます。

また、カウンター席の出来・不出来は単純な印象面だけでなく、売り上げにも関わります。

座り心地が悪ければお客様は居着かず、店の滞在時間が短くなれば必然的に注文数が減り、客単価も下がってしまいます。とはいえ、カウンター席というものには複数の種類があります。

店の業態によって、どのようなカウンターが良いかは異なってくるため、一概にはお伝えできません。そこで次項では、カウンターにおける三種類の構造、I字型、コの字型、L字型を例として、それぞれのメリットとデメリットを見ていきましょう。

2.カウンター席のメリット・デメリット

I字型のカウンターは、厨房と向き合う一般的な形状のものです。これは費用を抑えられてスペースの確保もしやすいため、主流となっている無難な選択肢と言えます。スタッフがお客様と対面する形になるため、コミュニケーションが取りやすいのが特徴と言えるでしょう。ただし、幅を広く設けすぎるとお客様の状況を確認しにくくなり、十分なサービスが提供できなくなってしまうリスクもあるため注意が必要です。

次にコの字型のカウンターです。文字通り、コの字の凹み部にスタッフが入って接客をするタイプのカウンターになります。

スタッフが全体の様子を把握しやすく、飲食物の提供が容易になり、お客様同士が対面して座る形状なため、そこでコミュニケーションが生まれ店内に活気が生まれやすいのがメリットです。ただし、大衆居酒屋のような業態の店に向いた形状なので、落ち着いた雰囲気の店づくりを考えている場合はあまり適していないと言えます。

続いて、L字型のカウンターです。I字型の形状に加えて、厨房の側面部にまで席を設けた形のカウンターになります。厨房の中の様子を見せやすく、鉄板焼きや創作料理など、調理工程をパフォーマンスとして見せる業態に非常に適しています。静かで落ち着いたムードの演出にも向いていますが、ポピュラーなI字型と比べるとスペースの確保が大変という点は、デメリットとして挙げられます。

3.居心地の良いカウンター席の作り方

さて、各カウンターの特色を列記しましたが、上に述べた通りどの店にはどれが最適なのかを選ぶのは簡単ではありません。ただ、お店に適さないカウンター席の特徴を挙げることは難しくありません。その適さない要素を避けるよう心がければ、良いカウンター席を作ることが可能かもしれません。

まず、客単価が下がってしまう要因として、カウンター席が手狭であるというケースが挙げられます。皿の置き場がなくなってしまえば、お客様は注文をストップされるでしょう。せっかくお腹の容量的にはまだ食べたいなと思ってくれていても、皿の置き場がないのでは、注文を思い留まってしまうでしょう。加えて、テーブルに余白がないというのはお客様に心理的な圧迫感を感じさせ、抑圧された心理状態というのは空腹感を軽減させてしまいます。

またカウンター越しの厨房から、お客様を見下ろしてしまう視点になる構造も避けるべきです。人は総じて、見下ろされることに不快感を覚えます。上から覗き込まれる形になると、監視されていたり会話を盗み聞きされているような錯覚を覚えてしまうものです。日本心理学会の調査によれば、人間は飲食店で自由に席を選んでいいと言われると高確率で端の席を選びます。これは、外敵から身を守るための心理が働いていると言われているのです。

このことからわかるように、人間は食事をする際に安全と不干渉を望みます。会話という形での双方向コミュニケーションであれば、コミュニケーションを望まれているお客様については問題ありませんが、一方的に見下ろす・一方的に視線を送るという構図は避けた方が無難と言えるでしょう。

4.まとめ

初めて訪れた飲食店の店内に通された瞬間「あれ?なんだか居心地が良くないな」と感じたことはありませんか?スタッフの接客や店の清潔感に問題がなくても、原因が判然としない不快感を覚えてしまった。もしこのような経験があれば、それはカウンター席の構造に問題があるのかもしれません。カウンター席は「店の顔」であり、料理や接客を頑張っていても、カウンター席の不備だけで印象の良くない店になってしまう可能性があります。

カウンターの構造に万全を期すことが、飲食店を人気の店へと育て上げていくための第一歩なのかもしれません。

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