不燃のいろは、お伝えします。
- 萩原 実(写真左) 株式会社東集 東京西営業部 部長
- 平成6年に東集に入社。最初に配属された茨城営業所とその後異動した栃木営業所で新規開拓活動を中心に従事。板橋店や本社での営業やお客様センターでの経験を経て東京西支店に配属される。平成28年に同店の店長に着任し、以後は東京都や埼玉県エリアを中心に担当している。日々大切にしていることは「お客様が注文しやすい状況づくり」。
- 廣神 治(写真右) 株式会社東集 東京東営業部 兼 直販営業部 部長
- 平成6年に東集に入社。1年間新木場店での現場研修を経て、その後春日部営業所へ転勤。そこで経験を積み平成15年に千葉店で店長に就任し、東集の経営理念の構築にも携わる。千葉店が新木場店と統合され東京東支店の店長に任命され、現在は東京東営業部兼直販営業部の部長としてメンバーと東京都や千葉県エリアを中心に活動している。
近年、注目が集まっている不燃木材とは?
―不燃木材とはどういうものでどういう種類があるのでしょう。
萩原:一般的に自分たちで取り扱いをしているものとしては、無垢に不燃の薬剤を注入して燃えないように加工した材ですね。あとはダイライトという元々の不燃素材に単板を貼ったものや不燃の構造用合板が中心となっています。一番多いのは無垢に薬剤を注入して羽目板として納めることが多いように思います。
廣神:まず、不燃木材がどういった形で生まれたのかということを考えると、「木をもっと内装に使っていきたいけど、防火とか安全性といった建築上の基準があって、どうしよう」という課題に対して燃えにくい木を作ろうということで各工場の方々が開発されたところからスタートし、15年程の歴史を経てきたのだと思います。
―では、不燃木材の特徴とはどのようなものなのでしょうか。
萩原:不燃木材を使うという事例は増えてきていますが、手間がかかっていたり薬剤を注入したりしているので通常の木材と比べて値段が高めです。現場で使いたいというのは昔からあるのですが、予算の範囲内で収まらないということがネックになっています。ですが、火事とか防火の面でどうしても使わざるを得ないという風潮となってきてここ最近は前持った予算取りが増えてきていると実感していますね。
―不燃木材の製造方法は工場によって特徴があるそうですね。具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
萩原:木材を薬剤の中に放り込んで漬け込むというところが始まりだったと思いますが、それでは中の方まで薬剤が浸透しないことや時間がかかるといった問題がありました。それに対して工場側が努力を重ねた結果、加圧式といって圧力をかけて薬剤を注入する方法が今は主流になっています。中には木材に小さく穴を開けて薬剤が入りやすくしてから加圧器に入れて薬剤を注入するという工場も出てきているので、これからもよりスピーディーにそして低コストで生産が進んでいくのではないかと予想しています。
廣神:最初に不燃木材ができた頃は薬剤に漬けて完成としていましたが、それでは一本ずつの不燃具合の精度のバラツキが生じてしまっていました。時代の変化の中で、行政をはじめとする「公的」機関「から」、品質は均等に保たれているのかという意識が高まってきました。そういった環境が変わっていく中で機械を使って加圧する方法がまずできてきて、そして先程萩原さんが仰っていた一本ずつに穴を開けて注入するというのはさらに精度を高めていこうとする目的で開発された方法ですよね。このように見てみると不燃木材というのは進化し続けているように感じます。
萩原:木の種類によっては硬い木や柔らかい木もあって、その中で白太と赤身もあって、入りやすい場所や入りにくい場所というのが分かれます。白太といっても自然に生えている木なので白太だから全て入りやすいという訳ではありませんし、これは目視で分かるものではないのです。実際に薬剤を入れてみたものの実は入っていなかったということも発生しているのではないかと思います。
廣神:不燃木材が進化していく目的というのはどんなに大きな公共事業であっても、国を始め都道府県が提示する厳しい要求基準に対して自信を持って大丈夫だというための開発のように感じています。
-今は防火に対する意識も高まってきているようですから、それだけ高い品質の不燃木材が求められてきているのかもしれませんね。
萩原:そうですね、火災によって甚大な被害を被ってしまう事故が実際に発生してしまうこともありますからね。だから、「このままの状態ではいけないが木は使いたい」という意識が生まれてきているのと世界中でも木をもっと使おうとする考えが広がっていることもあり、今後もこの目的を達成していくための研究は進んでいくと思います。
-主に不燃木材はどのような場所で使われているのでしょうか。
廣神:主に公共施設で使われることが多く、一般住宅に使われることはまだ少ないですね。
萩原:例えばオリンピックで使用される大きな事業にはふんだんに使われているでしょうし、あとはホテルのような場所にも使われているでしょう。最近では店舗とか居酒屋とか密集している中で使われることも増えてきているように思いますね。建物自体も燃えにくい構造に、そして入居する店舗や居酒屋も燃えにくい内装にしていこうとする意識が高まってきているのではないでしょうか。我々がお付き合いさせていただいている企業様からの問い合わせもここ数年の中で少しずつ増えてきているように感じています。
廣神:例えば地下鉄のようなところであったり、私たちが気付かないところでも木材が使われていたりする、そのようなものは不燃木材が使われているのでしょうね。
萩原:不燃木材は見えるところだけではなく、見えないところで使うこともあります。内装業者が見えないところであっても芯材として不燃木材を使うケースも見受けられます。その他にも不燃木材に単板を貼ることで意匠性を高めて現場で使用する事例も増えてきていますね。工場側も不燃木材に独自性を出そうと努力している印象を受けています。
-不燃木材は不燃木材、準不燃木材、難不燃木材と分類されていますが、どのような違いがあるのでしょう。
廣神:そもそも不燃木材と呼ばれているが燃えない訳ではないのです。火事が発生し始めてから避難するための時間を確保するため、燃え尽きるまでの時間が何もしていない木材より長いのが不燃木材の特徴です。不燃、準不燃、難燃というのは燃え尽きるまでの時間の程度によって分類されます。一番燃えにくいとされているのが不燃木材、燃え尽きるまで20分の時間を要するとされています。
萩原:20分というのは温度を750℃にして燃え広がらないか等の細かいルールを守っているのが前提となります。そのルールの中で20分燃えないものが不燃、10分だと準不燃、5分の場合は難燃材という分けられ方がされています。私の感覚だと難燃材を見かける機会が減ってきました、20年程前は案件の中でよく聞いていたのですがその後準不燃木材が普及し、さらには不燃木材が多く利用されるようになってきました。
廣神:少し高価格でも「安心を買う」という時代に入ったのだと思います。最近の不燃木材のトレンドとして全品検査を行ったという保証を行えるのか否かということもあると思います。その保証の有無によってその工場と取引をするのか否か土俵にいるかいないかの差になるくらい違いますね。公共事業の例だと全品検査が必須ということまでは求められていませんが、全品検査を行っても支障がないと工場側が提示できるのは大きな自信の表れのように感じます。
萩原:火事になって10分で逃げないといけないのと20分で逃げないといけないとでは助かる率が全然違ってくるとも思いますね。
-それぞれの種類は価格や燃え尽きる時間以外でどのような基準で使い分けているのでしょうか。
廣神:例えば建物を建てようとして木材を使いたいとした時に、まずは立地に関する法規制を見ます。立地の案件によって「ここは難燃で大丈夫」「ここは不燃を使いましょう」と建築申請時に設定されています。
萩原:コスト面と法規制の制約、あとは設計士の意識の問題もあると思います。意識の高い設計士であれば不燃木材を使おうということにもなってきます。ここに予算との兼ね合いが絡んでくるのでしょうね。不燃木材を使いたいという方は多いと思います。準不燃木材より良いことは分かっているのですから。
廣神:たとえば2020年開催予定であった東京オリンピックの開催にあたっては大きな公共事業として新しいスタジアムや施設が作られて木材がふんだんに使われていますが、多くの不燃木材が使われているでしょうね。
-次は注入する薬剤についてお話をお聞かせください。木材にホウ酸系等の薬剤を注入すると燃焼しにくくなる以外の効果も生じるようですね。
廣神:薬剤の種類になると細かい話になってきます。薬剤を1本に対してどれくらい注入するのか、工場によって法で定められている基準以上に入れていたり基準値ぎりぎりしか入れていなかったり様々です。薬剤を多く注入するとその分重くなりますので天井等、高い位置に使う場合は重さも考えた上で設計していただく必要があります。
萩原:あとは不燃木材の特徴として白華現象というものがあるでしょうね。これは昔からついて回ってくる問題ですが、不燃木材は湿気や結露により中の薬剤が表に出てきてしまうことがあります。そうすると白い粉が噴いているような状態になってしまいます。何の対策もしていない場合はほぼ発生してしまうと考えていいでしょう。販売する際に注意事項をお渡しして白華現象についてお伝えするようにしているのですが、クレームになってしまうこともあります。水分子がホウ酸とリン酸と結合して発生してしまう、化学の世界ですよね。
廣神:今現在、白華現象が0だと証明や保証している工場はないように思います。ただ、各工場とも可能な限り0に近づけようとする努力をされています。
萩原:注入する薬剤を変えて白華現象を発生しづらくする工場やリン酸とホウ酸の両方を使っているが表面をコーティングして白華しづらくする工場と様々な努力が行われています。今後、100%白華しない商品が出てきたら皆が欲しがるでしょうね。日々100%に近付く努力をしていかなければ不燃業界では置いていかれてしまうのかもしれませんね。
廣神:あと忘れてはいけないのは基本的に屋外に使えないということです。屋外で使うと白華現象はほぼ間違いなく起こると考えていいでしょう。外気に触れてしまうし雨に濡れてもいけませんから。たとえばマンションの管理人の方がエントランスに木材を使いたいとなった場合、万一白華してしまうと毎日通る場所なので目立ってしまう。そういう時に「そこに使ってはいけませんよ」と言えるような存在になりたいですね。
萩原:目先の売上のことを考えるのではなく、責任を持って販売していかなくてはいけないですよね。お客様がどれだけ望んでいてもそれに伴うリスクもお伝えすることは販売する側として持ってなくてはいけない意識だと思います。
-不燃木材は塗装もできるのでしょうか。
萩原:不燃木材に塗装ができないのかと問い合わせも結構いただいています。一般的に工場が無塗装の状態で不燃木材の認定を取得している場合、無塗装の状態でしか認定書を出すことができません。無塗装の状態で工場が出荷して現場で塗料を使った場合、塗装した部材の不燃の認定が取得できないのです。
廣神:無塗装の不燃木材認定品に不燃塗料という組み合わせがあり、セットで使えるものだと思いがちですが実はそうではないのです。発注者に(認定書は出ないが)これでも大丈夫なのかと確認を行ってから実施しなくてはなりません。
萩原:現場で塗装した不燃の木材の認定書は発行されないので別々に取得していただくかこれで大丈夫かと設計士に確認を行っていただく必要があります。
廣神:塗装をするのかしないのか、色々と制限や相性があるのも不燃木材の特徴の1つですね。
萩原:塗装をするかしないか、どのような塗装を行うのか。そこに白華現象のことも考えながら進めていかなくてはなりません。ウレタン塗装を行うと白華した際にウレタンの塗膜が邪魔をして白い粉を取ることができない等大変なことになってしまう、無塗装の場合は塗装したような仕上がりにはならないが無塗装だと削って戻すこともできる、どちらを取るかですかね。
-塗装材によって不燃木材との相性のようなものもあるのでしょうか。
廣神:ありますね。この塗料を塗ってはいけませんというような相性は存在しています。塗装済品で不燃認定を取っている工場もまだ少数ですが出始めてきました。
萩原:塗装の色も何種類も出している工場も存在しています。木の良さをそのまま出すためのウレタンとは別の塗料で何色のパターンも保有している工場も存在しています。
今後、不燃木材の取扱事業者として求められること
-年々不燃材の注目が上がっているようですが、今後不燃材の取扱事業者としてはどのような点に注意していかなくてはならないでしょうか。
萩原:現場でどのような不燃木材が求められているのか、勉強もしながら現場の声を聴いてしっかりと対応していかなくてはならないですよね。
廣神:不燃木材を扱う工場は多いですが、それぞれが単独でゼネコンを中心として大規模な案件を取ろう動いています。そのような状況下においてもあらゆる需要、環境、設計、仕様、予算、納期までを加味したうえでお客様にとって何がベストな選択なのかご提案を行っていくことでしょうね。低価格だからという理由だけでは決められないと思います。
萩原:現場においては品質、価格、納期と求められるものが異なります。不燃材を精算する工場は価格に自信があったり納期に自信があったりと様々な特徴を持っています。その他にもクレームに強い、というようなことや白華しにくいというような特徴を持っている工場もあります。
-これまでお話を伺ってきた中で大きな公共工事の話が目立っていたように思います。それ以外の案件というのもあるのでしょうか。
萩原:公共工事等の大きい現場となると使用する量も多いですし、予算を多くとっていることもあります。その一方で店舗の改装や幼稚園、お寺等で使う事例も段々と増えてきています。元請から小売店に下りてくるルートでの納品も増えてきていますね。
廣神:私の近所の店舗でも飲食店のほんの一部で使われていたりするのを見かけます。昔は不燃木材になかなか手が出せなかった。工場の努力もあって身近な存在になってきているように思います。木材が使えない場合は工業製品を使おうとなってしまう、その傾向も変わってきているのかもしれません。
萩原:木材を使うということは環境にも優しいのです、だからこそ世界的にも木材を使おうという動きも出てきています。木を使うことにより二酸化炭素の固定等環境に優しいサイクルが生まれていきます。実際にこの前にあった話なのですが、工務店様が不燃木材の木材を購入しようと思っていたら実は不燃木材ではなかったということがありました。現場がもう動き始めている中でどうするかという状況です。通常不燃木材を納品するのに状況にもよりますが1カ月~2か月程かかるのですが14日以内で納めてほしいという注文でした。結果的にその現場では10日で納品することができました。
廣神:短納期で対応できるというのも企業努力の成果ですね。今のお話の通り、不燃木材はオーダーを受けてから量が決まって工程を組んで製材して時間をかけて注入を行い、その後に検査も行います。月単位の納期であったものが今では注入の前工程で半製品の状態として保有することで短納期を実現している素晴らしい努力の形ですね。
-これからも不燃木材は進化し続けていくのでしょうね、とても楽しみです。本日はお二方ともありがとうございました。