現代における大工の実状に迫る

  • 柳沼 克典(写真:左)
  • 木造建築大工歴22年。前職の材木店で監督や配送に従事した後、大工に転身する。株式会社匠技建にて修業を積み独立。東京都多摩地区を中心に様々な住宅建築を手掛けている。

  • 望田 誠(写真:中央)
  • 木造建築大工歴35年。20歳の時に自身の父(望田 竜太の祖父)へ大工の弟子入りし、5年目で独立。東京都多摩地区を中心として、主にアイフルホームカンパニーの住宅建築を経験。難しい納まりの建物も、豊富な知識と技術でお施主様の希望に対応している。

  • クレストホールディングス株式会社 取締役COO & CSO
  • 株式会社 東集 代表取締役
  • 望田 竜太(写真:右)
  • 早稲田大学商学部卒業後、株式会社リサ・パートナーズにてPEファンド部門に所属。投資実行・投資先管理業務に携わる。その後、PwCコンサルティングの戦略チームに転じ、BDD、PMI、業務改革、新規事業創出、DX等、様々なテーマを経験し、2020年より取締役COO&CSOとしてクレストホールディングスに参画。同年、株式会社 東集の代表取締役に就任。

望田:本日はよろしくお願いします。早速ですが、一般的なイメージとしては棟梁と呼ばれる親方から弟子に技術が伝承されているように思うのですが、実際のところはどのように行われているのでしょうか。

望田(父):それは今も同じです。しかし、親方と弟子の関係や親子の関係だけではなく、大工の養成学校出身の方、ハウスメーカーが育てて現場で活躍されている方と様々です。大工ではないですが、外国の方を育成していることもあるようです。

望田:親子の関係というのは実際の親子ですか。

望田(父):そうです、大工の世界は厳しいので親方と弟子の関係では長く続かない方が多いように感じます。現代の若い方は特に一人前になることより大変なことはしたくないという傾向にあるようですから。その一方で、私の近くではあまり見かけませんが、ハウスメーカーが育てていることが増えてきているようです。

望田:今は若いなり手が少ないというデータはよく見かけますが実際にはどのような状況でしょうか。

望田(父):なり手がいないというのは現場にいても感じています。周りの仕事を任せられる最若手でも35歳といった状況です。それより下の年代もいますが、まだ仕事を割り当てられる段階ではありませんね。

望田:親方と弟子の関係だと1日ずっと一緒にいるのですよね。

望田(父):もちろんそうです。四六時中一緒の空間にいるわけですし、仕事なのでストレスを抱えながらにもなってしまうでしょう。笑い話をしながらというような環境ではありません。

望田:養成学校は昔からあったのでしょうか。

望田(父):ありませんでした。学校という選択肢が出てきたのはここ10年前後でしょう。それまでは大工の息子が大工を継ぐ、またはその頃は弟子入りという道を選ぶ方もいて、大工の就業者数を維持できていました。

望田:弟子入りはどういった形で行われていたのでしょう。

柳沼:親子関係でなければ身近な方の紹介でしょうか。私の場合は大工の前職が材木店に勤務していたのでその時のつてを頼りに大工に転身しました。建築の世界において一人でやっていこうと考えると大工となって独立する道を考えるのが一般的です。将来は独立して自分でやっていきたかったため大工の道を選びました。独立すれば自分の好きなように働き方を選ぶことができるためです。

望田:昔は厳しい環境でもやめる方は少なかったのでしょうか。

望田(父):その頃は他に仕事の選択肢も多くはなく、厳しい環境でもやめるという選択肢がなかったのです。ですから、しっかりついてきてくれる人が多かったです。しかし、現在ではなり手が少ない上に長く続ける人が少ない。大工は一人前になるのに5年は必要だと言われていて、そこまで到達することができれば独立も見えてきます。やる気次第でしっかりと収入を得られる職業ですよ。

柳沼:先程もお話ししましたが、時間を自由に使いやすくなるという点が大工の良さの一つですね。「〇日までに終わらせて」と依頼を受けるとそれに間に合うように自分でスケジュール管理を行い、自分が好きなように進めることができますから。早めに上がってジムに通うというようなこともできてしまうわけです。

望田:独立まで5年程かかるということですが、それより短かったりする方もいたりするのでしょうか。

望田(父):もちろんいます。ただし、短ければいいというものではなく、独立したら自分の判断で進めていかなくてはならないのでここでしっかり経験を積んでおかないと後で自分が困ることになります。

柳沼:私は親方には教わることなく経験を積みました。親方の帯同者や自分の兄弟弟子に色々と聞きながら覚えていきました。

望田:独立する場合はどのように独立していくのでしょうか。

柳沼:親方につく段階で5年経ったら独立することを伝えていました。4年目の時に親戚の子を紹介し独立した後の1年間自分が教えて育て、お礼奉公をすることなく独立しました。

望田:お礼奉公とは何でしょう。

柳沼:独立後も1年程は親方の下に残って奉公を行うことです。1年間それまでより低い報酬であったり他の案件を手掛けた際にもその報酬の何割かを親方に納めたりしていたのですが、大工の世界は厳しいのでそのようなシステムがあるのです。独立を考えている人を教えながら報酬を渡し、5年後にはいなくなってしまう。これは育てた側からするとかなりの損失でしょうからね。今はこのようなシステムは減ってきているかもしれませんが、私が独立する頃にはこのようなシステムがあったのです。

望田(父):ハウスメーカーで育てられた人材は即席で集中的に育て、分業して組み立てるわけですから、自分が手掛けられる範囲が限られてしまう。そうすると別の会社に行くことが難しく、その会社に属し続けることになるでしょうね。同様に学校出身者も一人前になることが難しいかもしれません。

望田:独立したての頃、仕事はどのように請け負ってくるのでしょうか。

柳沼:独立する頃に親方から紹介を受けることもあれば自ら工務店に仕事がないか訪問することもあります。昔は材木店が案件を取ってきてそれを抱え込んでいる大工に依頼をするケースもあったようです。

望田(父):今では材木店が紹介するケースはほとんど見かけないですね。そもそも材木店が姿を消してしまっている。町の商店街のように時代の変化の中でお客様の要望に応えきれなくなったのでしょう。

望田:昔と比べて若手の育て方は変わってきていますか。

望田(父):昔のように厳しく指導することはなくなりました。昔は研ぎもののような手作業が多く自分で道具を作っていたりしましたが、今は初めてすぐに鉋からスタートするということはないでしょう。教育の仕方が変わってきていますよね。

柳沼:業務が年単位で割り当てられていて、最初の1年はずっと同じ仕事、2年目は1年目とは違いますがまた1年間同じ仕事を…と積み重ねていきます。

望田:(入りたて間もない新人の教育について)最初はどのような業務からスタートするのでしょうか。

望田(父):鉋(かんな)を使って何かする、ということではなく周りの方の世話役ですね。昔はプレカットがなかったので削ったりすることが必要でした、その頃は刃物が使えないと仕事にならなかったという事情もありました。

望田:プレカットが多くなると木を切ることができない大工もいるのではないですか。

望田(父):私は木を切れなければ大工とは呼べないと考えています。

柳沼:工務店によっては大工と呼ばず、現場作業員と呼んでいるところもあります。

望田(父):最近はフルプレカットというものが登場して組み立てだけで完成するので、これまでにも増して木を切る機会が減ってきているでしょう。会社によってはフルプレカットを導入して組み立てるだけとして、大工の技術を要しない建築方法を採っているところもあります

望田:プレカットと特注で建設する場合で具体的に求められることの違いはあるのでしょうか。

望田(父):リフォームや増改築といった仕事になるとプレカット側は関わりが薄くなってきます。これらの仕事はその場で木を刻んでいかなくてはならないので技術が必要となってくるのです。

望田:ここからのテーマは和室です。事前に調べてみたのですが和室の取扱量が減っているとのことでした。家を建てる時に和室はどのような位置づけなのでしょうか。

望田(父):建物が小さくなってきたときに、まず見直すのが和室です。

柳沼:今の和室は本物の和室ではないのです、集成材は使わず、あとは枠を使うくらいでしょうか。今は大壁工法なので昔と造りが大きく変わりましたね。

望田(父):たまに平屋の案件で真壁工法の和室を見かけることはありますね。

望田:和室はもう時代のニーズに合っていないのでしょうか。

柳沼:そもそも和室は何のためにあるのでしょう。現状は洗濯物干し場になってしまってはいないでしょうか。広い家の場合は和室があるでしょうが、そうでなければわざわざ設けなくても…となってしまうのかもしれません。

望田(父):今は外国人が和に関心があったりするので観光地だとか寺社のような古いところであれば多くあるかもしれませんが、それ以外では見かけることも減っているでしょうね。

望田:和室以外のことも含めて昔と違って今だからこそ苦労することは何かありますか。

望田(父):1件あたりの受注単価が下がったことでしょうか。そこにはプレカット化が進み、施工が簡単になってしまったという背景もあります。簡単になったのでその分、数をこなせるようになったという考え方もできますね。

柳沼:仕事内容は昔の方が多かったですが、金額にすると1件あたり20年で40万円くらい下がったという認識です。

望田:昔の大工には技術の質が求められていたのでしょうか。

望田(父):特殊技術が必要だったのでしょう。現場で木を刻むことが必要でしたし、設計図から柱の数ですとか必要な本数を計算することまで大工が設計して実際に組み立てていくことを行っていました。設計書は今より簡易的な内容だったので、そこから柱の強度などを大工が自分で考えて施工していくわけです。今は組み方の設計図を受け取るのでそれに従って組み立てれば完成します。こうなると誰がやっても余程のことがない限り技術力で差がつくということはなくなるでしょう。木を刻むことを必要とするのは寺社ですとか範囲が限られてきますね、個人宅で刻みが必要だという話は最近あまり聞かない気がします。

望田:二人がこれまで取り扱ってきた中で印象的であった和室や階段の納まり、取り扱ったことのある高級材等は何でしょうか。

柳沼:紫檀(シタン)です、すごく光沢がありましたね、刻むのに苦労したのを覚えています。とても丁寧に扱わないと表面がガラスのようになっているので割れてしまったりします。

望田(父):やり直しが効くものは特別緊張することはないですが、銘木のような高額なものを取り扱うとなると慎重になりますよね。

望田:最近は公共機関でも木を使おうとする動きがみられますが、最近使用されている木材の特徴や流行りのようなものはありますか。

柳沼:LVLです、曲がることがないので重宝しています。強度もあるので助かりますね。

LVL:単板(ベニヤ)の繊維方向(木理)を平行にして積層及び接着により製造されている木材加工製品。強度や寸法安定性に優れている合板に対し、繊維並行層の割合が高く軸材や骨組材として用いられるのが「単板積層材」である。これが別の名で「LVL(Laminated Veneer Lumber)」と呼ばれている。

望田:建築現場の目線で材木店に期待することはありますか。

柳沼:欲しい時に届けてもらえるのが一番ありがたいですね。必要なときに手元にあると助かります。傾向として「ちょっと待ってくれ」と言われることが多いと感じています。

望田(父):材木店も環境が変わってきている中で新しいことに挑戦していくことが求められているのかもしれませんね。例えば、ハウスメーカーと連携して必要な商品を教えてもらい、それに応えて納品していくような方法です。連携を行うことによって幅が広がっていくと思います。ネットワークをどんどん広げていくことが今後大切なのではないでしょうか。

今回はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。

今回の対談では普段あまり耳にする機会のない大工の世界だけではなく、住宅建築の在り方が変わってきたというお話も伺いました。若手の大工が十分に育成されていく環境づくりが必要だということについて考えさせられました。

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