和室における畳寄せの納まり方

さらりとした手触り、清々しいイグサの香り、畳とは本当に心地良いものですよね。畳は鎌倉時代から長きにわたって愛され続けており、江戸時代の頃には御畳奉行という畳作りや畳の張替えを管理するための役職まで存在していました。この頃は主に武士や富裕層の間だけで用いられているものでしたが、江戸後期から明治維新後にかけて、一般家庭にも広く普及していきます。

ですが、平成の頃にはフローリング床の洋室が流行したことで、和室や畳のない住宅が増えていきました。しかし近年では和の文化が見直されたこともあり、畳敷きの和室が再び復権してきています。畳と聞くといかにも伝統的な技術ばかりをイメージしてしまいがちですが、昔ながらの技術がそのまま継承されてきているわけではなく製法も逐次見直されており、耐湿性や断熱性に優れた床材として進化を遂げているのです。どこか郷愁を誘う趣と心置きなく寝そべって手足を伸ばせる快適さは、洋室のフローリングにはない大きな利点と言えるでしょう。数百年の歴史を経て、日本人のDNAには畳の香りや手触りが深く刻み込まれているのかもしれません。

そんな畳を和室の床に敷く際、ある部分に必ず木材が必要となることをみなさんはご存知でしょうか。

1.畳寄せとは

和室の壁は真壁造りといって、柱を壁よりも出っ張らせた構造です。

これは柱の木目を露出させることで部屋を美しく見せる効果があるのと木材を空気に触れさせることで防腐性を高めることなどを目的とした伝統的な手法なのですが、この構造だと柱に比べて壁が引っ込んでいる形になってしまいます。そこへ畳をそのまま敷いたのでは、柱と壁に段差ができている部分が隙間になってしまいます。

見栄えが良くありませんし、安定性や衛生面を考えると、この状態では畳を満足に利用することができません。

突出した柱の形状に合わせて畳を切り抜いて納めることも可能ですが、あまり美しい仕上がりにはならないため一般的ではありません。

そこで、「畳寄せ」が登場します。畳寄せとは和室の壁と柱の間にある隙間を埋める部材で、これがあることによって不自然な段差がなくなり、柱と壁、壁と床の境目が平らで綺麗なものになります。ここに畳を敷くことで、ようやく一般的な畳敷きの和室が完成するのです。

2.畳寄せの果たす役割

畳寄せに似ている巾木は洋室にあるもので、畳寄せと同様に壁と床の間をつなぐ木材が挟まれています。今洋室にいらっしゃる方は床と壁の継ぎ目をご覧いただければ確認してもらえるのではないかと思います。和室にも洋室にも似た部分があるのは、それが建物の構造上とても重要な役割を果たしているからです。木材であれ他の素材であれ、床と壁をそのままくっつけようとすると必然的に細かな隙間が生じてしまいます。例えば木材であれば、木は気温や湿度でわずかに膨張したり収縮したりといった誤差を生じさせますので、単純に立方体の箱を組むような構造にしてしまうとそこにたわみが生まれてしまうのです。

そのため、和室を造る際にはその継ぎ目に畳寄せの木材を一度挟みます。これは壁と床の隙間を埋めて隠し、さらに緩衝材としての機能で構造をしっかりとさせてくれるのです。こういった細かな部分が綺麗に仕上がるか否かを建築用語で「納まりが良い」「納まりが悪い」というように称するのですが、違和感なく隙間を埋めてくれる畳寄せは和室の「納まりが良い」仕上がりに大きく寄与してくれているわけです。

加えて、現代の家庭では多くの場合、掃除に掃除機が用いられます。壁と床の境目に掃除機をかける際にはゴミやチリを吸い残してしまわないよう、少々荒っぽくがつがつと吸い口を壁にぶつけてしまうことがある方も多いでしょう。もしこのときに壁と直に当たるようだと、大切な壁材や壁紙に傷が付いてしまいかねません。しかし実際は巾木がありますので、掃除機が当たるのは巾木になります。巾木は基本的に装飾のないシンプルな木材ですので、少し掃除機が当たったくらいでは見た目や機能が損なわれません。他にも水や飲み物などをこぼしてしまった際に、壁が直接濡れて汚れてしまうのを防ぐ役目なども果たしており、総じて部屋を造る際には欠かせない役割を果たしているのが巾木なのです。

3.まとめ

ご紹介させていただいたように、和室と畳と木材とは切っても切れない深い関係にあります。人々の暮らしを少しでも快適にするべく、長い歳月を経て最適化されてきた畳と畳寄せの技術は、これからも大切に守られていくべき日本の文化と言えるでしょう。畳の上に座ったり寝そべったりする際に、和室と畳の文化を培ってきた先人の知恵と現代の職人たちの心意気に思いを馳せてみるのも面白いかもしれません。ただ床の上に敷かれているのではなく、細やかな調整と気遣いがそこに存在していることを知ることで、みなさまの中に今までよりも少し畳への親しみが増していただければ嬉しく思います。

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