森林から建築物の木材となるまでの流通工程

日本は昔も今も、森や木々と切っても切れない関係にある国です。海に面していない県はあっても森林が一つもない県はありません。森を見たことが一度もないという方は、それほど多くはないでしょう。そんな私たちの生活に隣り合った存在である森林が、日本の国土のうち何割を占めているか、みなさんはご存じでしょうか。

林野庁が数年おきに発表しているデータによれば、2017年時点での日本の森林面積は2,505万ヘクタール。これは国土面積のおよそ三分の二を占める割合です。また、新しく建てられた住宅のうち木造住宅が占める割合は平成21年以降、55%以上の高い割合で推移し続けています。

木々を育み、その恩恵を受けながら発展してきたのが日本という国であり、そんな「山と森の国」日本において、木々を伐採して管理する林業は決して欠くことのできない大切な仕事です。

最近では豪雨災害も多発しており、放置された木々が大規模な土砂崩れの原因となっていることがテレビで報道されるなど、林業を意識する機会が少し増えているのではないでしょうか。

ですが、林業によって伐採された木々がどういう流れで加工され、流通しているかまでを知っている方はそれほど多くないかもしれません。

そこで今回は、私たちの生活を支えてくれている木々の流通の流れを追ってみたいと思います。

1.林業の流通経路

林業には川上、川中、川下という三つの言葉があります。木を伐って素材を生産し、原木市場で販売されるまでが「川上」、伐り出された木を製材加工するのが「川中」、住宅の建築や家具作り等に用いられて消費者の手元に届く段階を「川下」といい、これは流通の経路をそれぞれ川の流れに例えた言葉です。それでは、流通工程について詳しく見ていきましょう。

2.川上

まずは、伐採された木が原木市場で取り扱われるまでの工程をご紹介します。木材を伐り出す際、木を横倒しにする「伐倒」を行います。次に木材として使うには邪魔になる枝を落とす「枝払い」、そして木を用途ごとの規定の寸法にカットする「玉払い」の三つの作業が行われるのです。玉とは切断された丸太を指す言葉です。林業と聞いて一般的にイメージされがちなのは、轟音で唸るチェーンソーを使って木を伐り倒す場面ではないでしょうか。

確かにチェーンソーは主に用いられている道具ですが、木を伐ってそのまま運べるフェラーバンチャ(伐倒機)、枝払いや玉払いを含めた全作業を行えるハーベスタ(伐倒造材機)、集材用の各種トラクタなどなど、多くの道具を用いての作業効率化も進んでいます。そうして各地の森林組合の管理下で伐採された木材は、原木市場へと運ばれていきます。

原木市場では、木材の傷や曲がり方といった様々な要素に鑑みて木材ごとの用途や価値が定められ、その価値を前提として競りにかけられることで、ようやく市場に出回ります。また、日本国内で流通している木材の全てが国産というわけではなく、およそ七割近い割合で外国産の木材も用いられています。外国産の木材は産地から商社が輸入し、日本の基準に合わせた仕分けをされて市場へ出回ります。

3.川中

原木市場での競りを経て加工場へと運ばれた木材ですが、この段階ではまだ生えている木を真横に切断した丸太のようなもので、製品に使うことはできません。森の木や街路樹でも、木は根本から先端へと向かって細くなる形状をしており、部位によって素材として使えるかどうかは異なります。

根元に近く最も太い部位は、木そのもののサイズごとに大丸太、中丸太と呼ばれます。頑丈な部位ですので柱や梁材、一枚の板材としての加工に用いられることが多いですが、薄くかつら剥きにしたものが合板として用いられることもあります。木の中ほどの部位は小丸太とされ、ラミナと呼ばれる小さな角材のピースとして切断された後にそれらを組み合わせた集成材として加工されることが多いです。また、木の先端に近く細い部位は小径木と呼ばれ、枝と合わせて粉砕機にかけられチップになります。これも捨てられるわけではなく、大量のチップを加熱圧縮して固めることでパーティクルボードという素材に生まれ変わります。

壁や床、屋根の下地材などに用いられることが多いです。こうして余すところなく加工を受けた木材は、さらにプレカット工場という場所へと運ばれ、木材が現場で実際に用いられる用途に合わせて継ぎ手、仕口などの加工や、細かい寸法の調整が行われます。

4.川下

プレカット工場で調整された木材は、実際に建物や家具を組み立てる職人の元へと流れます。昔は規格化された寸法の木材を現場で調整していたのですが、今はプレカットの段階を経ることで現場での負担が減り、個々の技量による仕上がりの差も少なくなりました。

技術も流通も日々進歩を遂げており、よりよい状態で木材が運ばれ、利用されるように試行錯誤されています。木造住宅や家具、細かいものでは日用品や工芸品まで、様々な形へと加工されることで、ようやく木材は一般消費者の手元に届く商品へと姿を変えるのです。

5.一般消費者

川上、川中、川下と、まるで長い川を流れてきたかのようないくつもの工程を経て、山や森林で育った木材は、私たち消費者の手元へと届けられます。

これらの流れは一朝一夕に整えられたものではなく、現在の国有林の原型をたどるだけでも明治維新後の新政府にまで遡ります。日本の建築や工芸、ひいては日本という国そのものが木々とともに歴史を歩んできました。現代においても変わることなく、私たちの暮らしの隣にはいつも林業と木材があるのです。

6.まとめ

今回は、森林から建築物の木材までの流通工程をご紹介させていただきました。私たちの生活を支えている木材は、さまざまな工程を経て消費者の元に届けられているのです。木材がどんな人々の手を経て、どのような工程で私たちの元へ運ばれてきているのかは、山林に囲まれた国に住む私たちにとって非常に興味深いものです。日常で目にする木材を、普段とは異なる視点で見ることで新しい発見があるかもしれません。

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