木材の伐採方法「間伐」と「皆伐」を比較する

みなさんは林業の仕事にどのようなイメージをお持ちでしょうか。斧を担いで山や森林に入る昔話の木こり、チェーンソーを使って物々しく木々を伐る、あるいは、重機を使って伐倒している現代的な姿を想像する方もいらっしゃるかもしれません。いずれにせよ、木を伐って我々の元まで木材を届けてくれる仕事だということはご存じなのではないでしょうか。木を伐る手法として、「間伐」と「皆伐」があります。このコラムではこの二つの違いや特徴をご紹介していきます。

1.間伐と皆伐の違い

まず、それぞれについて簡単に説明していきましょう。「間伐」とは、森林の木々がお互いの日照や栄養を奪い合って育たなくなることを避けるために、樹木の密集具合を考慮しながら木々を間引く手法です。対して「皆伐」とは、土地の質や木々の生育状況などに関わらず、森林の一区画の木々をすべて伐採する手法のことをいいます。これだけを聞くと、間伐が良くて皆伐が悪い手法のように感じてしまうかもしれません。ですが物事には様々な側面があるもので、間伐と皆伐についても一概にどちらが悪いと断言出来るものではありません。

2.目的

間伐と皆伐はどちらも伐採の方法ですが、それぞれ主な目的が異なります。木々の生育状況を確かめながら間引きを行う間伐の目的は、環境保全と森林の管理にあります。人間の手が入らず伸び放題になっている森林は日が差し込まず見通しも悪く、木々の成長効率も悪くなってしまいがちなので、適度に手を入れることで適切な状態を保てるのです。対して、皆伐の目的は木材伐採の効率化です。この木は残す、あの木は伐るという区分をせず見える範囲の木をすべて伐ってしまう手法ですので、当然ながら作業を大幅に効率化することができます。

3.メリット

そんな二つの手法には、どちらにもメリットが存在します。

まず、間伐は上述した通り、曲がって形が悪い木や生育状態の良くない木々を間引くことで、状態の良い木が日光や栄養を集めやすくできることがメリットです。さらに、状態が良くなるのは木だけではありません。不要な木々を減らすことで地面へも適度な陽光が届くようになり、たくさんの草花が生育しやすい土壌を作ることが可能となります。よって林業にとって必要な木だけでなく、山林全体の環境を整えることができます。

さらに木々の一本一本が地面に深い根を張れるようになり、根の深い木は台風などに晒されても倒れにくいため、山の地盤を強化することに繋がります。これは大雨とそれに連なる土砂災害などが多発している近年、見逃せない大きなメリットと言えるでしょう。

次に、皆伐のメリットを見ていきましょう。作業効率が優れているという点には先ほど触れましたが、それ以外にも良い部分は存在します。皆伐によって一帯の木を伐り倒して山肌が露わな状態になる光景は、一見すると単純な環境破壊にも見えてしまいますが、転じて同じ区画に同じタイミングで、同じ種類の木を一斉に植林できるという側面があります。そうすることで一帯の木々の樹齢を揃えることができ、先々の生育管理や伐採のペースを調整しやすくなる点は利点と言えるでしょう。また、日本の山林のうち大きな割合を占めているスギは花粉症の原因であり、スギと聞くだけで憂鬱な気分になる方もいらっしゃるかもしれません。国民の約三割が罹患しているともいわれ、国民病とも称される花粉症対策として、林野庁はスギ人工林の伐採を挙げています。他にも鬱蒼と茂った木々で見通しが利かず事故の原因となったり、治安が悪化している場所を改善したりするためなど、社会にとって不利益となる森林を適切に管理する手法として、皆伐が有効な場面というものも多々あるのです。

4.デメリット

それぞれの手法のデメリットも見てみましょう。

間伐は、本来の理念である環境整備、森林保護の観点から外れた、粗雑な間伐が発生しやすいという点がデメリットです。木の種類にもよりますが、植えられた木々が大きく育つまでには基本的に数十年を要します。昭和のころに植えられた木が平成、令和になってようやく木材として伐採できるというように時間がかかるもので、林業従事者には能動的な収入のコントロールが難しいという問題が付きまといます。その点、間伐はまだ育ちきっていない木を間引きの名目で伐採することが可能です。これによって平均して収入を得やすくなりますが、この傾向が行き過ぎると間伐するべきでない箇所での間伐、雑な間引きが発生してしまい、本来の目的から外れてしまうケースが出てくるのです。

皆伐のデメリットは、樹木をすべて伐採することによって、その土地の環境を大きく変化させかねないということです。例えば、本来木陰になっていた場所が直射日光に晒されて乾燥し、生態系が崩れてしまうことなどが懸念されます。さらに樹木の根は地盤を支え、根によって地中に生じるたくさんの小さな空間は雨水を遮る天然のダムとして機能しています。これらを失ってしまった土地からは水の保持力が失われ、土砂崩れなどのリスクが急激に高まってしまうのです。また、二酸化炭素を吸収する木々の数が減ることで、地球温暖化が進んでしまうというデメリットも見逃せない部分です。

5.まとめ

間伐と皆伐の二つの手法について説明しました。林業はただ単純に木を伐って木材を採っているだけの仕事ではありません。森林の安全管理と環境保全、ひいてはこの国の自然を未来へと繋いでいくことを考えながら、適切な伐採が行われています。もし山や森で林業をしている場面や街中で木材を見かけることがありましたら、この伐採は間伐と皆伐のどちらだろう、この木材はどうやって集められたものなんだろうと頭の片隅にでも思い浮かべてみてはいかがでしょうか。

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