未来の森林づくりへ林業界の認証制度とは

世界各国で問題となっている森林伐採。国連食糧農業機関の2019年の報告書によれば、1990年代から失われた森林の面積は約4億2000ヘクタールにのぼるといわれています。これにより、多くの野生動物が住処を失い絶滅の危機に瀕しているだけではなく、地球温暖化の原因とされる物質のひとつ、二酸化炭素の吸収が抑制されてしまっているのです。現在では、こういった負の連鎖に歯止めをかけるべく、森林保全活動に取り組む団体が現れ、その意識は世界的に高まっています。

このような状況において、林業の世界でも持続可能な森林保全を行うために認証制度が設けられています。では、この認証制度と森林保全の関係とはいったい何なのでしょうか。今回は森林保全の認証制度について迫ります。

1.認証制度とは

そもそも森林の認証制度とはどういったものなのでしょうか。

森林認証制度は1993年にドイツで始まったもので、現在は国際基準としてFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)と、PEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification Schemes:PEFC評議会)の2種類が有名です。そのほか、各国が独自で定めた認証制度とそれを定める基準も存在しますが、いずれにしてもここ30年以内に創設された比較的新しい制度になります。

この制度の目標は持続可能な森林経営を林業従事者だけでなく民間主体で行っていくこと。政府や国家は運営に介入させず、これらから完全に独立した第三者機関によって認証が行われているのです。

環境・経済・社会のそれぞれの面から森林経営の基準を設け、その基準をクリアしている森林とそれを経営する林業従事者に認証を与えます。そして、対象の森林から生産された木材に「認証ラベル」をつけ、ほかの木材と取り扱い方や使用用途を区別しているのです。この、流通させるうえで「認証ラベル」を取得するための認証を「CoC認証(Chain of Custody認証)」といい、消費者が環境問題に配慮した木材を購入する際にこの木材を選択できるようにしています。

なお、ほぼすべての認証制度において共通する持続可能な森林かどうかという認証の材料になる基準は、以下の5つです。

  1.     合法性、政策、制度枠組への遵守
  2.     森林の生産力の維持・向上
  3.     森林の環境便益の維持・向上
  4.     生物多様性の維持・向上
  5.     社会経済機能の維持・向上

以上のように、森林認証制度は厳しい基準によって管理されているのです。

2.認証制度の種類・違い

認証制度にはいくつかの種類があることは、先にお話しした通りです。では、これらの認証制度にはどのような違いがあるのでしょうか。ここでは世界基準のスタンダードであるFSCとPEFCの2つを、それぞれ説明していきます。

●FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)

1993年に世界自然保護基金(WWF)を中心に、世界で初めて設立された森林認証制度です。その認証基準は厳しく、10原則56基準からなる厳正な審査を行う世界で最も信頼のおける認証制度とされています。

認証した森林の総面積は世界で約1億4,783万ヘクタール、CoC認証は21,879件と面積、件数ともに世界最大です。認証取得後の管理システムの改善や向上を義務化しており、ただ認証を受けただけで制度そのものが形骸化しないような仕組みが整っています。

一方で、設立当初に環境保護団体の影響が色濃く出ていたため、それをよく思わない国からはこの制度自体に難色を示している場合もあります。

●PEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification Schemes:PEFC評議会)

FSCに遅れること6年、1999年にフィンランドを中心として設立された森林認証制度です。PEFCの大きな特徴として、FSCと違い各国の認証基準と相互承認するという点があります。各国の現状や社会情勢を加味して柔軟に認証基準を変更させているため、FSCの認証制度で基準に満たなかった国が参加しています。このような形をアンブレラ型といい、現在34か国がPEFCの傘下にある状態です。

この制度の問題としては、各国の認証基準を相互認証しているため基準があいまいで、NGOからその不明瞭さを批判されている点が挙げられます。

3.認証されるメリット

これらの森林認証を受けるメリットとして、森林運営をする企業や法人が大々的に環境保護姿勢やCSRとしてアピールができるという点があります。環境に配慮した木材の生産・販売による企業活動が認知され、企業のPRとなる大きなきっかけになる認証であるため、林業に関わる企業は積極的な認証を受けているのです。

また、近年の消費者の環境配慮志向とも重なり、製品の差別化によって競争相手に勝つこともできます。これら消費者の購買意欲増進による売り上げの増加で、森林保全活動に充当できる資金を増やすこともできます。

4.未来の森林づくりへの期待

このように、森林認証され、CoC認証によってラベリングが行われた木材が社会や経済に浸透することによって、林業従事企業の森林保全活動が広く認知されるようになります。また、森林保全活動が拡大することの恩恵は人間社会だけでなく、生物の保護活動と地球温暖化対策でも受けることができるのです。例えば、インドネシアでFSC認証された森では、オランウータンの巣が形成されていることがわかりました。スマトラ島で約9000頭しか存在が確認されていないオランウータンが巣を形成していたことは、自然界にとって大きな意味を持ちます。各種の基準が異なっていたとしても、未来の森林を作っていくうえで重要な役割を果たしているのが森林認証制度に対する国際的な期待となっているのです。

5.おわりに

林業に関わる全ての人間だけがこの認証制度を意識しても、未来の森林づくりにはつながりません。

重要なのはこれらの認証制度を経て流通している木材を、消費者がよく理解したうえで選択をすることにあります。もちろんこの認証を維持するために林業における役割は欠かせません。ですが一方で、選ぶ側である消費者が森林認証のことを念頭に置かなければ、生態系の保護や環境保全活動という森林の果たす大きな役割を未来にわたって守ることはできないのです。森林保全に対する認証制度は、林業に従事する者だけのものではなく、われわれの将来を守るためにも必要不可欠なものなのです。

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